本作の主人公・鈴本一樹は、自由奔放な父親、ミュージシャン、恋する男と多様な顔を見せる。そんな大人の自由を謳歌しているタフな父親・一樹を作り上げる上で、井ノ原は細やかな役作りを行なっており、演じることへのこだわりが随所に感じられる。
例えば、セリフの一言とっても、シーンによっては「お弁当」を「弁当」と言い換えたり、井ノ原自らセリフの順番を変えることを監督に提案することもあり、実際の撮影にも採用されている。
役作りに関して、井ノ原は「事前に準備をしっかりするけれど、(撮影)現場で違うなと思ったらどんどん見直していった」と、語っている。この柔軟な役への向き合い方により、一樹の自由さと等身大の父親のリアルさのバランスを見出していったようだ。
そして一樹のファッションにも、井ノ原の役への細やかな演出がみられる。
原作者の渡辺俊美を参考にしつつ、自前の洋服や帽子、ブーツなどを取り入れて、一樹の服装やスタイルから人間性が感じられるように現場スタッフと相談しながら決めていった。
さらに精緻な芝居の一端を、録音の大竹修二は「一樹の声は、誰と居るかで全然違う」と、明かす。「虹輝と一緒の時は、何があっても正面から受け止めるぞ! という落ち着いた感じで、真香(阿部純子)にはちょっと甘えた調子。バンド仲間だと中坊みたいな口調になっています」と、一樹がどういう気持ちで周りの人と向き合ってるかを声でも表現している。是非劇場では、井ノ原の自然体の演技だけでなく、声にも注目してほしい。